「……ま……さか……そんな]

(なぜ……こいつ……心臓をつぶ……したのに)

ガシッ

ミヅキは、宙を舞うクロウズの頭を、むき出しの指の骨で突き刺した。

「ぐぁっ!!」

(かっ……上半身が、吹き飛ばされたっ)

(……頭だけで……は……数分も……もた……ない)

すでに、ミヅキも意識を保つのが困難になっていた。

心臓を砕かれた瞬間、霞んだ意識に流れ込んだのは、永遠を生きた狗の膨大な感覚だった。

砕かれた狗のミイラの破片が、ミヅキの破れた心臓で生命力を取り戻した。

それは、胸の穴を、一瞬で塞ぐほどの不死力。

強制的に限界まで絞り出されたミヅキの身体機能は、ダーザインとなる事で、クロウズの想像を絶する力と、速度を可能にした。

しかし、心臓や胸の傷以外は、回復した訳ではない。

千切れた掌は、骨がむきだしのままだ。

滴り続ける血液が、ミヅキの意識が不死力を受け入れない抵抗を表している。

凄まじい痛みにも関わらずクロウズの上半身を、粉々に吹き飛ばした。
さらに、頭を掌に突き刺して、半壊した店に戻る。

ミヅキは、二度目の鼓動が響く前に、その全てを実行した。

(多くは、考えられない……せめて……)

ゴロっ

頭だけとなり、無惨に転がったクロウズの視界に、彼を見つめる瞳がある。

「かはっ……」
「ヒュ……フュ……アク……」

クロウズによって、全身の血を抜かれ干からびたミイラと成り果てた少女、……サヤだ。

ミヅキは、口から血を溢れさせながら言った。

「おま……えが、滅びれば、この娘は、人間に…戻る……」

「まて!!! 確かにこの娘は、私の血を混ぜてダーザインにした」

「私の生命力が弱まれば、人間と変わらなくなる」


「わっ私が死ねば、人間に戻る」

「だが、ミイラの状態でだ」

「数秒で死ぬぞ」

「ミヅキ……私を助けるんだ……」

「この娘を人間に戻してやる」

「なっ……ミヅキ……それしか……」

聴こえているのか、ミヅキは、微動だにしない。


崩れかけた店の窓から、空が白んでゆくのを焦点の合わない瞳で見つめている。

クロウズは、叫んだ。

「まて!!! その前に!!!」

「い……ぬ、狗を……あのミイラを」

「ダーザインは、夜しか存在できない」

「狗が……あのミイラが、日の光を浴びると、すべての不死が消滅する!!!」

「お前も死ぬ!!」

「この街が滅びるぞ!!」

ミヅキは、静かに少女を、膝に抱き上げ
腕を振り上げた。

「この街が普通の人間の街になるだけさ……」

「この娘に血を戻す」

「この娘が、俺の姉なら、血も合うはずだ……」

「俺の身体にダーザインの血がめぐる前に……」

ミヅキは、口許を歪めると、

首にからまったクロウズの髪を引き抜いた。

ミヅキの首は静かに胴をはなれ、

その血がサヨに降り注がれた。

(知ってた)

(幼い頃)

(かくれんぼをして、遅くまで見つけれなかったのは)

(毎日、働きに出てたから……)

(そして、あの日……拐われた)

(あのときは、助けれなかった……)

(今なら……)

鎮まりかえった血だまりの中、サヤは目蓋を開いた。

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