ミヅキが目をさました時、少女はいなかった。
あいつ……人間に戻れたのか……。
目の前には、舌を突き出して無惨に干からびたクロウズの頭が転がっている。
ミヅキの首は……繋がっている。
誰かが繋いだのか、首筋には生々しい傷がはしっている。
両腕は……掌から先は、剥き出しの骨が突き出たままだ。
麻痺してるのか、痛みはさほどない。
なぜ、首が繋がっているのかはわからないが、それがダーザインの能力であったとしても、それももう終わる。
夜明けだ。
……
……
いや……夜が明けていない。
ミヅキが、自らの首を跳ねる前、空が白んでいたはずだ。
なぜ!?
空が闇でつつまれてる。
掠れる意識の中、
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「夜明けを一緒に見よう」
「夜が開ける前、あの噴水でまっててくれ……」
「君が好きな夜明けを一緒に……」
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(……リナ)
ミヅキは、ふらつく足をひきずって歩きだした。
(……くっそう)
(……くっ……くっ……)
(ここまでしやがって……)
干からびた頭部から出たクロウズの舌が、ミヅキの流した血溜まりをすする。
(からだ……ちくしょう……このままでは、自我が保てない)
(瓦礫……この店の瓦礫で、身体を……)
記憶を共有していた f は、おぞましさに身を捩った。
自分の身体を支配しようとしたクロウズとは、これほどまでに身勝手で狂った男だったのか。
そして、ダーザインのあさましいまでの生命力。
自分も、そのダーザインの一人なのだ。
f は、命じた。
「ソナタノソンザイヲユルサナイ」

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f が、目を覚ましたとき、小さな部屋のベッドに寝かされていた。隣にもうひとつ。
女性が眠っている。
クロウズの記憶に出てきた。
ミヅキを慕う女性リナだ。
シーツには、無数の花がおいてある。
長い間、身動きひとつしてないという事か……。
インザイン(目覚めぬ者)なのか……?
「お前は……どちらだ?」
入り口の扉にもたれかったミヅキが問いかける
暗い部屋の中、その瞳は、真紅に光っている。
fは、思わずミヅキの手を見た。
手首から先は、黒い手袋で覆われている。
そういえば、ミヅキはいつも、食事をしている時でさえ手袋を外した事はなかった……。
「f だよ」
「証明してみせろ」

ミヅキは、自身の額に指を当てて見せた。
「あっ……」
「ナンジワレトトモニ」
それは、f がミヅキと遭遇した時、f がミヅキの記憶を掘り返しその記憶に植え込んだ言葉。
f の能力は、洗脳。
ミヅキが、f を助けたのは、この能力のおかげなのか……。
「クロウズは、どうなった?」
以前の f は、生きるために自身の能力を使うのは、当たり前だと思っていた。
しかし、ミヅキを暗示をかけてから、その罪悪感が、チリチリと身を焦がすようになっていた。
f は、躊躇いがちにつぶやく。
「【ソナタノソンザイヲユルサナイ】って、暗示をかけた」
「あまりにも……ひどいと思ったから」
ミヅキの表情が、少しだけ穏やかになる。
「俺を、哀れんでくれたのか?」
ミヅキは、f の頭をやさしく撫でた。
ミヅキの手袋の中には、肉はなかった。
恐らく、血を固めて手の形を保っているのだろう。
それを悟らせないため、ミヅキは、f に触れたことはなかった。
だが、ミヅキの過去を見た f に、隠す必要は……もうない。
その気遣いは、洗脳で得られるものではない。
いままでも、これからも……。
「……ありがとな」
「少し休め…… 明日話そう」