第3部 004話
f は、店の机を巧みを掻い潜り、
男の攻撃をかわす。
いつの間にか、
裏返しにされていた椅子に足をとられて
バランスを崩したところで、
f の一閃が貫く。
ゴトン!
4人目の男が床に沈んだ。
「くく………残りはお前だけだ」
「アレーテウェイン(真理化)を
身に付けても、なぜ俺の相手にならないか?」
「不思議そうだな」
床に男達の血が広がっていく。
カウンターの隅で膝を抱えていたオトネは、
その血溜まりが、異様な速さで床に
吸い込まれて行くのを見た。
・
・
・
・
・
「敵の組織の人間に、
私の一族の事を語られたくはないな………」
レヴィンは、敵意を隠さずに話す、
ミヅキの姉だと聞いたことがあるが、
組織のボスに礼儀を示すつもりはなかった。
「なんの用だ?」
「ミヅキに用なら、店に来てもらおうか?」
気配が濃くなっている。
サヨが近付いてきてるのか?
ダストを感じる事ができるようになった
レヴィンにとって、美しく白い女は、
恐ろしく深い恐怖としてしか感じられない。
「50年前、あなたのお婆様の教団を
亡ぼしたのは、前のボスよ」
「いわば、敵討ちをしてあげた様なもの
だと思うけど………」
「いずれにせよ、昔の話だ」
レヴィンは杖を、真っ直ぐサヨに向け、
近づくのを制した。
「…………」
「あの娘よ」
「あの娘の口ずさむメロディーは、
あなたの教団の……」
「教団には興味はない」
「一族は…… 家族は……」
「私にはミヅキがいる……」
レヴィンは素早く応えたが、
その唇は微かに奮えている。
「あなたは、あの娘の価値に気がついてる」
サヤは、そっと指先で杖の先端を撫でた。
「知りたくない? 」
「あなたの一族が何を目指していたのか?」
「手伝ってあげる」
「あなたの望みを……」
・
・
・
・
・
「近づくな!!」
「それ以上近づくと、この女を殺す!!」
f は……… f の身体を操る者は、
呆れた表情を浮かべる。
「おいおい………その女を連れて
帰らないと、 ボスに怒られるん
じゃないの?」
「まぁ………もう遅い」
「貴様……マインドブレイク
起こしてるから、気が付かなかった
のかも知れないけど」
「お前の仲間達は、どこに行ったかな?」
男が見渡すと、倒れた仲間達がいない!?
……いや
最後の一人が今まさに………
床板に溶け込まれていく……。
「きゃあ!!」
オトネは男を振り払い、
壁に身をこする様に逃げる。
男は、追いかけようとするが、動けない。
さっき、足をちぎられたからか?
「アレーテウェイン(真理化)は、
通常を遥かに越えた身体能力を得る
そのかわりに、自身の変質に鈍感になるん
だよね~」
いや……それだけではなかった。
男の足の先は、床に一体化していた。
「まさか?」
オトネに過去の忌まわしい記憶が蘇る。
この店が……。
f がテーブルに残されたスープに手を伸ばす。
スプーンで
一口。
男の足が膝まで床に沈む。
「この ガキの身体はディバイス(端末)」
二口。
下半身が……。
「俺の本体は、この店そのものだ」
一気に皿ごと飲み干した。
「ぅわあああああああ!!!!」
男は、一気に床板に吸い込まれて行った。
f は店の様々な場所を撫ではじめた。
感覚を楽しんでいる。
「あなたは誰?」
「 f をかえして!!」
オトネは精一杯叫んだが、
恐怖に震えた声からは、
なんの力も発せられなかった。
f は、頭を掻きながら、煩わしげに呟く。
「女に指図されるのは、たまらなく嫌なんだ」
f は、邪心に満ちた笑みをうかべる。
「やっぱり、拐われた事にしとくか……」
床板が、オトネに向かって波打ち始めた。
“AZURELYTONE 3-004” への1件のフィードバック