第二部 003話
「インディアヴェルトザイン
(In-der-Welt-sein)」
<ここに存在は世界する >
ゴォォォっ
f は、身体に流れ込むダストの量に圧倒された。
だが、その小さい身体を必死に拡げて受け止め続けた。
ダストを吸収された犬たちは、
泥のように眠りはじめる。
<きっと、不眠不休でダストに操られていたのだろう……>
<つまり、この犬たちを操っていたダーザイン(本体)が、別にいるという事だ……>
全身を紅に染めたレヴィンが、肩で息をしている。
30匹以上の犬を相手にしながら、f に一筋の傷もつけさせない。
「はぁ…はぁ」
………………ゴトン
………ドン
しかし、奥の壁や天井が産み落とし始めたもの………
「f……にげろ」
「そんな………」
「こんなことが……」
虚ろな目をした人々が、操り人形のような、ぎこちない動きで立ち上がる。
「これは……ここの住人たち……か」
その瞳のどれもが、にぶい深紅のひかりを灯しだす……。
二人は、目の前に悪夢を見た。
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「……先客みたい」
「あら?……懐かしい顔ね」
透明と誤解させるような、白い少女が、対象的に漆黒の犬を従えて、ミヅキの背部に立っている。
ミヅキは、振り返らない、いや……反応する気がないようだ。
「そのままでは無理よ」
「………なんだと?」
ミヅキは、壁に拳を叩き付けながら応えた。
「振り向きもしないのね」
寂しそうに微笑む。
しかし、その表情はどこか芝居がっている。
「お互いに用はないはずだが?」
ミヅキは、平静を装おっているが、その心中は自身でも抑えられないなにかが湧き出ようとしていた。
「私もこの建物に用があるの」
彼女が自分に会いに来るはずがない。
………あぁそうだろうな。
ミヅキは。自分に言い聞かせ冷静さを取り戻した。
「この建物に入るのは無理だ」
「扉を壊したくらいでは、直ぐに修復されてしまう………壁もだ……」
白い女が、唇をつりあげる。
「あなたは、”コレ”が建物に見えてるの?」
「………この建物がダーザイン(不死体)」
「何者かが、建物と一体化している………」
「何十倍もの体格の生き物を小突いてもムダ………」
ミヅキは、壁から拳をはなした。
「あなたは仲間を助けたい」
「私は中に用がある」
「利害は一致ね」
女が去ったあと、ミヅキは呼吸を整えて、壁に両掌をあてた。
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