「ケンカしたんだって?」

突然入ってきたリナに、溜め息をもらした。

「…………ノックして欲しいんだけど」

少女は、スーツケースのキーダイヤルをグルグル回しながら、応えた。

「まだ、思い出せないのね」

リナは、少女の傍に座り、優しく諭す。

「いいのよ」

「……服なら私の使えばいいよ」

「子供のころのがまだあったと思うし……」

諦めたのか、ダイヤルを”0000″に回すと、スーツケースをベッドの下にしまった。

「よかったらさ」


「大事な物が入ってるなら、荷物、私の家で預かろうか」

「うちなら、誰も来ないし」

「………ミヅキ以外は」


少女は、リナの顔をまっすぐに見た。


「付き合ってるの?」

リナは、真っ赤になってうつむく。


「…………店長には内緒ね」

おそらく、隠しきれてないのは明らかだ。

だが、この鈍さも……この娘にとっての初めての恋だからなのかもしれない。

「と……とにかく、服なら店の二階に、私の子供の頃の服があるからさっ」


少女は、子供らしからぬ微笑ましげな目で、リナを見つめた。


「ありがとう」


リナは、ふっと、ミヅキの瞳に似てると感じた。









コートは、店長が親方をしていた時期に、使っていたものだ。

街の中央噴水の工事を受けおったのを最後に、親方は仕事をやめて、店を始めた。

親方は、迷い子を店で面倒を見るようになった。


ミヅキが拾われたのは、その後まもなくだった。



ミヅキの身体には、かなりサイズオーバーだが、防寒着としては最適だった。



フードのファーが頬に優しく触れる。


稀族に成りたいとは思わない…………ただ、店の借金を軽減出来ればそれでいい………。

このくだらない余興に、この安い命を張る事になろうが………。


「おい……ミヅキく〜んよ」

無視して過ぎようとするミヅキを、数人の男たちが囲む。

何故かガキのころから、ミヅキに無意味にからんでくる街の奴ら……。

「お前、クロウズ様から勅命を受けたんだって?」

「やるじゃねぇか?」

……………?

「………様?」

つい最近まで、稀族のグチばかり、その鬱憤晴らしに、ミヅキを小突いて来てたのが……?

「……眷属の洗礼か?」


「そのとおり!」


「俺は眼を」「俺は耳を」「俺は舌を」

三人が同時に言うので、聞き苦しいうえに、ミヅキは何故か三匹の猿を、想像してしまい苦笑いを浮かべた。

稀族は、永遠の命を保つため、使い古しのパーツを入れ換えるって噂は本当のようだ。

中古とはいえ、不死の力を手に入れらるとすると、コイツらなら、喜んで提供するだろう。

「……で?」

「何の用だよ」

「その勅命のおかげさまで、時間ないんだけど……」

ドゥ!

二人がかりで羽交い締めにすると、ためらいなく鳩尾に拳をつきいれる。

「ぐぅ!!」

「決まってんだろうがっ!!」

「気合い入れにきたんだよ!!」

「俺たちが、さずかった目と耳と口は、クロウズ様に繋がってんだっ」

「お前がチンタラしてるから、ヤキ入れて来いとさ!」

………くだらねぇ。

やることはかわんねぇじゃねぇか………。

感覚がおかしくなってきているのか?
殴られてもさして衝撃もない……しばらく好きにさせてれば気が済むかな………

だが、コイツらの纏う空気感に、違和感……狂喜を感じるのは気のせいか……。

「なにしてるの!」

「あなたたち!!」

リナが、スーツケースを引きずりながら、近寄ってくる。

「リナ来んな!!」

男たちは、ミヅキを解放する気はないらしく、羽交い締めにしたミヅキの身体をリナに向ける。

「おやおや……飼い主様のおでましだぜ」

「そんな言い方は、やめて!! 制度は廃止になってるのよ!」

「制度があろうと、なくなろうと、コイツが奴隷として、お前んとこに買われたのは事実だろうが!?」

当時、この街には養子という制度はなかった。



みよりのない子供は、街の外に放出されるか、飼われるかの選択肢しかなかった……。

制度が廃止になって5年近くたつが、差別の意識は根強い。

偶然にもミヅキは、同年代のリナとその父親が、奴隷制度廃止運動のメンバーだったこともあり、それなりの教養も培っているが、教育すら受けていない元奴隷達は、制度廃止の意味すら分からない者もいるだろう……。

「なにより俺達の授かったチカラが、身分の必然性を証明するものだからな〜ぁぁぁあ」

ビキィィギィィ

「リナぁぁぁ……ぉ前も 眷属ゥにィ ィィ」

男達の身体が、交換した部分から、不自然な拡張と硬質化を始めた。

「キャアアアアアアアアアア!!!」

目の前で、人間がそれ以外に変わる。

リナにとって、それは恐怖でしかなかった。

「まて!!!」

「やめろ!!!」

「犬なら、必ずみつけるから!!」

「リナは関係ないだろ!?」

ミヅキの必死の顔に、男は笑い出す。

「お前は、犬なんかを捜してんのか?」

その顔に、平手打ちを浴びせて、嘲る。

「俺達が、依頼されたのは、お前のネェチャンだよ」

「奴隷の分際で、クロウズ様の慈悲により稀族の仲間になったっていう………」

「館から逃げ出したんだとよ!!」

「せっかくの恩を仇で返しやがって……」

「な…………に………!?」

反射的に、リナを見た。

リナの目は、これ以上はないくらいに、見開かれている。

まさか………本当に………あの女の子が……!!!!

「俺達は、人を、お前は、ペットの犬を捜すように依頼されてたってことだ」

「身分の違いがわかったか?」

ミヅキが、咄嗟にリナの眼をみる。
口止めのつもりだったが、ちがう意味に捉えた。

「違う……ミヅキ……私は、ホントに知らなかった……」

ミヅキをつかんでいた男が、クロウズの声で呟く。

「その反応……居るな……あの女は……お前のところに…」

「この二人は、知りすぎた……ここで始末しろ」

男達の眼が狂気の色を増した。

「お赦しが出たぜ………」

「リナ………お前も災難だな……クックックッ」

男の変身を、目の当たりにしたリナは、恐怖でうごけない。

「やめろ!!  リナに手を出したら殺すぞ!!」

二人の男達に、捉えられたミヅキの目を、わざとらしくなめつめてから、ゆっくりと振り返り、リナに向かって歩みはじめる。

「やめろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ミヅキの脊椎に激しい痛みが奔る。
あの夜、クロウズに射し込まれた髪の毛が、更に深く神経を尖らせる。
(もっと……深く……だ!  チカラをよこせ!!!)

「ぅおおあぁぁぁぁらぁあ!!!!!!!!」

ミヅキは、雄叫びをあげると、二人の男を同時に投げ飛ばした。

AZURELYTONE【第4巻】へ続く





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