AZURELYTONE 第4部 002話
「たった今、解禁したのさ」
アルは、タバコをくゆらせながら、顰めた顔をクロウズに向ける。
「この店は、人間以外は立入禁止だ」
「そういう盟約のはずだがな……」
クロウズは、構わずテーブルに腰をかけると、部屋をみわたす。
吸いかけのタバコが、そこかしこのテーブルに無造作に放置されている。
クロウズは、嗅覚を閉じて呟く。
「……時と、場合による……」
「非常時さ……」
「子供を渡して貰おうか…」
アルが、カウンターから取り出したのは、リボルバーだった。
「だめだ」
・・・・・
「そのスーツケースを店に届けろ……」
倒れた男の口が、いびつな声を絞り出す。

白眼を剥いて気絶している男から、絞り出される声音は、クロウズのものだ。
バキン!
ミヅキは、顔面を踏みつけて強制的に黙らせた。
はぁ……はぁ……
感覚は、ほぼ……ない……。
痛みが麻痺している間に動かねば……。
「リナ……家にいろ……俺は店に……」
「いや……私も行く……」
「ダメだ!!!!」
「なら……逃げよう、二人で……」
三人の男は倒したが、その目や耳は、リナのスーツケースが白髪の少女の物だと気がついたはずだ。
今、逃げれば追い続けられてしまう。
「大丈夫……」
「終わらせてくるだけだよ」
ミヅキは、優しく囁いた。
「いつか……約束したよな」
「え?」
「夜明けを一緒に見よう」
「夜が開ける前、あの噴水でまっててくれ……」
「君が好きな夜明けを一緒に……」
・・・・・
「弾丸では、ダーザインは殺せんぞ」
カチリ
撃鉄を起す。
「知ってるさ……父さん」
初老をむかえるアルに、「父さん」と呼ばれるクロウズの外見は、20代半ばにしか見えない。
「お前は、私の言うとおりにしていればいいんだ」
「子供を渡せ」
「昔していた事をするだけだ」
銃口が細かに震える。
「正しいことを」

「正しいことをしていると、信じていた」
クロウズは、淡々と言葉を紡ぐ。
「お前は間違ったことをしていない」
「さあ 子供を渡せ」
「お前がする事は、いつもそれだけでいい」
アルは、憎しみの……絶望の籠もった瞳を光らせた。
「あんたは……あんた達は、子供らをどうした?」
「あんたのその瞳は?」
「何人の瞳を奪ったんだ!?」
「あの少女に、何をしたんだ!?」
クロウズは、歩みを止めない。
昔、この夜の世界に夜明けを呼び込むと唱って街の街灯のライトを鈴に入れ替えていた老婆がいたが……『正義感』に陶酔した人間は、つくづく無意味な事を強制してくる。
苛立ちだけが湧き上がる。
自分の息子は、今や、姿も思考も萎びた老人に成り果て、無駄な正義感を押し付けてこようとする。
永遠の生命を手にした自分の思想など、理解できるはずもない。
ドン!!
アルが、撃った弾丸は、奇妙な響きを残し、壁に突き刺さる。
「おいおい アル」
「この距離で当てる事すらできないとは……」
クロウズは、眉をしかめた……
「……ん……なんだ?……と」
アルは、哀しみに満ちた瞳で諭す。
「この銃の銃身と薬莢には、特殊な細工がしてある」
「弾丸を放つと、特殊な音が響くんだ」
「この音と振動は、ダーザインを形成するダストを、一時的に麻痺させる……」
それは、キャリアの深いダーザインほど効果を発揮する。
「父さん……いや、クロウズ」
「この部屋をタバコの匂いでみたしたのは、その下に敷き詰めた火薬の匂いを消すため……」
「一緒に地獄へいこう」
アルが、各テーブルに置いた吸いかけのタバコが、次々に床に落ちてゆく。
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!
・・・・・

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