第五部003話「狂闇の宴」
教会は、円陣に組まれた眠り人と、それを見守る人々で溢れかえっている。
ミヅキがフードを外しても、サヨには気づかれないだろう。

(詠唱が始まっている……)
ミヅキは、意識が霞み始めるのを自覚した。
【同じ水面は存在しない平衡すらない】
祭壇に立ち尽くすオトネが、呟くように奏ではじめた。
それは……失われた唄「アズレリイトオン」。
音階は意識を集約し、言葉は存在を定める。
眠り人達から、黒い焔が滲み落ちる。
ダストが可視化できるのは、それらの重なりが深くなっている証でもある。
足元を満たす闇。
それは、次第に床に沈殿を始めた。
歌声が奏でる”ゆらぎ”は、その旋律にあがらえない陶酔を誘う。
総てが、オトネの支配に誘われた。
その闇は足首までの深さになりはじめた。
ミヅキは、足に違和感を覚えた……。
(固定された!?)
天井に繋いだ血の糸で、跳び上がりステンドグラスまで避難する。
(ぐっ……!)
……その足首から下が千切れ落ちていた。
(まずい! 再生するまで動けない!)
「……!」
「……!?」
サヨとレヴィンは、ほぼ同時に、唄声に気を取られていた事に気付いた。
すでに、闇は腰の高さにある。手遅れだった。
祭壇の中央で身動きが取れないサヨとレヴィン。
なぜか、オトネは、闇に足を絡みとられる事なく唄いつづけている。
大量のダストが闇となり、眠り人達から滲み落ちるが、彼らが目覚める気配はない。
眠り人からダストを剥離しても目覚めない。それができるなら、ミヅキは恋人をめざめさせている。
水没したかのように、協会がダストの闇に染まる。
【過去のすべてを笑い飛ばせ】
【今のすべてを楽しめ】
【未来をひとつ自ら選べ】
オトネの旋律が変わる。
ダストが渦をまき、唄声を放つオトネに、吸収されようとしている。
歌声に導かれオトネに吸収される前に、よりキャリアの深いメフィストに吸収させる。それがサヨの策であった。メフィストにダストを吸収させれば、その血管をつないでいるサヨの不死力もより強化される。
この街……いや、世界で唯一無二の存在になるのだ。
力を……わたしだけの力を……?
力……力を奪わせるくらいなら……俺が?
!!!?
サヨとレヴィンの瞳が、狂気を孕み始めた。
二人に狂気が流れこんでくる。
アァァ!!!!!!!!!
不意に、参加者の、一人が頭を抱え叫び声をあげた。それを皮切りに協会中の人々が発狂をはじめる。
ミヅキは、霞む意識の中、思考を繋ぎ止めた。
(なんだ!? なぜダストを取り込んだ人々が?)
(ダストには、狂気が含まれている……)
レヴィンが、水晶球をかざし、ダストの吸収を加速させる。
サヨの瞳が紅に輝く。メフィストからの血量を、増加させた。
(これは、始まりのダーザインの狂気)
ゲーテは、最初のダーザインの実験体に狂人を使ったのか?
協会は、闇につつまれた。