第3部 002話
「いや……お店には一組ずつしか、
招いてはならないって………」
「ミヅキとレヴィンは?」
「今日は、教会まで二人で歩いてみるって」
「一時間は帰って来ないね……」
「いいんじゃない?」
「食事だけなら………雨も降りそうだし……」
「私も手伝うよ」
「うん………じゃあ」
店のテーブルは三つ、
それぞれに2人、2人、1人。
ミヅキとレヴィンも帰って来ないし、
常連さんも居ないみたいだから、
音楽の注文を説明せずに、
スープの注文だけにする。
いつの間に覚えたのか、
オトネはミヅキの作り方をそっくりに、
手際よくスープを煮込む。
(このペースなら、5人くらいなら
2人でこなせるな……)
(レヴィンもミヅキも戻ってきたら、
喜ぶかな………褒めてくれるかな)
気がつかなかった………。
慌ただしく料理を準備している間に、
お客達が視線を交わしあっている事に……。
料理を作り終えたオトネが、f の配膳を手伝い始めた時………
「きゃ!!」
バリン!!!!
「え? なに?」
f は、振り返る隙もなく、押さえつけられる。
「どっちだ?」
「わからん? 奴等以外に二人いるなんて、
きいてなかったぞ!!」
オトネを羽交い締めにした男が、
忌々しげに呟く。
「奴等が戻る前に連れ出さないと……」
(…………またなの?)
(このままでは……また)
(監禁される)
嫌だ………戻りたくない。
これまでのオトネは、自身の意思など関係なく、連れていかれるまま運命をまかせていた。
しかし、その脳裡に、
レヴィンの微笑みが浮かんだ瞬間。
オトネは、生まれて初めて運命に抗った。
「イヤヤウァアアアアア」
ごぼっ!!
オトネを抑えていた男の口から、血が吹き出す。
「f 逃げて!」
男を振りほどき、f をつかんでいる男に
体当たりをする。
「その女の方だ」
「女の口を塞げ!!!」
「ゥハぁあ!!」
ドクン!!!
オトネは、男の胸に向かって叫ぶ!
男の心臓は、高速で心拍しだした。
その身体が不自然に痙攣し出す。
もう一人の男が、オトネの首を掴む。
「ぐっ!!」
オトネの声と呼吸が止まる。
男の心臓も、以上な心拍が収まった。
「オトネを離せ!!」
身体が成長し始めたとはいえ、
少年の f の体重は軽すぎる。
あっさりと引き剥がされると、
壁に叩きつけられ、
その勢いのまま床に引きずり倒された。
「ぐぅ……っ」
f には、ミヅキの様に身体を強化するブレンド(能力)はない。
洗脳するにしても、過去を観る必要があるし、なにより数が多すぎる。
f は、自身の無力に絶望した。
その時、こすりつけられた床から
男の声がした。
<俺を受け入れろ>
一瞬で f の意識が飛んだ。
バキン!!!!!!!
f を踏みつけていた足が、
棒切れのように折れた。
「ぐわっ」
「………なん……だ?」
「俺の足がっ……」
ちぎれた足を、玩具のように握りしめ
ながら、f が立ち上がる。
ペキンっ
パキパキパキ
ブチブチブチブチっ
いともたやすく、雑巾のように絞り、
血を床にぶちまける。
「あんた……………ちょっと、カルシウム
たりないんじゃねぇ?」
その表情は、f とは別の人間のものだった。
「店に何人も入れやがって
……我慢できなくなるじゃねぇかよ」
「渇いてんだよ……こっちは」
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