第一部 008話
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店内は異常な緊張感が満ちていた…。

アズレリイトオン(碧天の調べ)という曲は、
存在しない………
夜の明けない街では、不可能な奏で……
この店でその曲を選ぶということは、
ありえないねがいを依頼するという事
だったんだ。
レヴィンは、思い詰めた顔で
水晶球を見つめている……。
f(フー)は、沈黙に耐える事ができなかった。

「レヴィン…ミヅキは、外に
なにをしにいったの?」
「………………」
「…………」
「彼女の父親を……」
「父親は、ダーザインなんだ」
「そして、彼の心は崩壊しかかっている。
彼女に命の危険を与えてしまうほどに…」
老婆は小さく震えながら、自身の血が依頼した事態の結末を真摯に受け止めようとしている。
「まえ、僕に話してくれたように
祓う事はできないの?」
「……何度も祓っている」
水晶を固く握りしめながら、
レヴィンは悔しそうにつぶやく。

「ダストを祓うと、ダーザインの
期間の記憶も消える」
「彼は……またダストを
受け入れてしまうんだ………」
「俺のこのダストの結晶では、
キャリア(闇の深さ)が浅すぎる」
「彼のダストを完全に
吸収できない 」
f は、思い詰めた二人を見比べた。
外のミヅキは、好んで彼女の父親を殺めようとしているわけではない。
もはや彼らには他に方法がないのだ。
「キャリア? その人より深い
ダーザインなら出来るって事?」
「キャリアなら……
その結晶より僕の方が…… 」

「僕は…………」
「ダストが混ざってダーザインに
なったんじゃない」
「産まれながらのダーザインなんだ」
f の瞳は、ミヅキのそれより
濃い紅であった。
「………君が?」

「吸収するというのか?」
・
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「ぐっ……」
降り注いだ硬質化した肉片は、ミヅキの身体を容赦なく削り続ける。

男は、凄まじい速さで、ミヅキの背後に迫る。
しかし、ミヅキの反応はそれ以上だった。

「おらっ!…」
ミヅキは、カウンターで男の腹部に、廻し蹴りをつきさした。
ザザ………
怪物と化した男に僅かな動揺がはしる。
「……?」
ミヅキは、血まみれになりながら、
そのスピードは衰えるどころか、
加速している。
「………あんた」
「肉にダストを取り込んだのか?」
「皮膚を硬質化……筋肉を弾力化……
瓦礫や砂利を圧縮して放つから
そのスピードが出せる………」

「この発想はなかったな………」
「すごいよ あんた」
ミヅキは、首に張り付いた男の手を、
自分の皮膚ごと無造作に剥ぎ取った。
「なぜ?
俺がその動きについていけるか……?」
「不思議そうだな……」
返事の代わりに、男は飛びかかる。
バコン!
石壁に大きな亀裂がはいる。
………既にミヅキはいない。
男が振り替えると、月の光に照らされた
ミヅキの姿があらわになった。
「簡単な答えだ」
その顔は、艶やかに碧く硬質化し、
その表面は刃となった血液に纏われている。

「なぜなら………俺も
人ではなくなっているから……」
ミヅキの瞳が深紅の輝きをます。

アレーテウェイン!!
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