
ゲーテ。
私達は、何年も何十年も、病の原因を研究した。
『永遠の生命が手に入る』
その噂に惹き寄せられる人々が、絶える事はなく、人体実験の素体集めに苦労はなかった。
しかし、リリィの病を完治する術は見つかる事はなく、リリィに病の苦しみに重ねて、犠牲者の罪悪も背負わせる事になるとは……。
やがて……集いし人々は街を創った。
街を維持させるために、不死力を利用するようになり、メフィストはその身体を絞り尽くされた。
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「な……この記憶は……」
メフィストは眠ってしまった。
これは、おそらくこの街の創始者の記憶。
そして、この犬の……。
館に充満するダストを、メフィストに取り込ませる予定だったが、サヨ自らに取り込ませるしかなさそうだ。
しかし……サヨは、戸惑いを隠せずにいた……。
メフィストと直接繋がってからのサヨは、自身よりキャリアの深いダストに接したのは、初めてだった。
ダストは、キャリアの深い方の影響を継ぐ。
(私は、このダストの“狂気”に耐えれるのか……)

青年の誘導により、目覚めた人々が避難をはじめている……。
(……半分は、成功かな…)
サヨは、力を開放する決意をした。
アレーテウェイン
ドクンっ!
「グハっ!!!?」
サヨが、胸を抑えて膝をつく。
メフィストには、心臓がない。一つの心臓……サヨの心臓を二つの身体で共有しているのだ。
(あの記憶を共有させるために、メフィストが力を使った!?)
「この大事なときに……」
誰がダストを取り込むのか。
眠り人達の避難をさせる事で、Fを館から脱出させる事はできたようだ。
レヴィンは、混濁する意識の中、ポケットから取り出したガジェットに、水晶球をはめこんだ。
水晶球は、ゆっくりと回転を始めたのを確認すると、すばやく視線で周囲の状況を確認した。
ダストをこのまま対流させたままでは、音階を操るオトネに流れ込んでしまう……。
ダストを、吸収できうるのは……。
サヨ……。
サヨは、メフィストに覆いかぶさって意識を失っている。メフィストいう虚無に、狂気を封じる事は、今や不可能……。
ミヅキ……。
寡黙ながら、どこまでも人の良い永遠の青年は、この狂気に絶えられるのか……?
だめだ、ミヅキにこれ以上の苦難を、与えてはダメだ。
この水晶球。
この水晶球では、ミヅキのキャリアには届かない……。回転力で重力を増したところで果たして……。
ダストは、より濃い存在にひかれる。
オトネの歌が掠れ始める……充分な訓練も積まないまま歌い続けているのだ……無理はない。
重ねて、自身がダストに侵される恐怖にも、耐えなければならない。
いや……オトネは、ブレスをしていない。
呼吸をしていないのか……!?
ドゥ!!
「歌を止めろ!!」
「レヴィン!! オトネを連れて舘を出るんだ!!」
舞台に降り立ったミヅキが、レヴィンとサヨの間に立ち塞がる。
いつものミヅキなら、この高さ程度なら足音すら立てることはないだろう……負傷している?
「ダメだ!! 歌を止めたと同時に、ダストはオトネに流れ込む」
この事態にも関わらず、レヴィンは冷静に応えた。
「彼女には、この狂気を抱えきれない!!!!」
このとき、ミヅキは気づかなかった。
レヴィンが、何故冷静なのか……。
「彼女が歌を止めないのは、自身に取り込んだ刹那に、自分の生命を終わらせるつもりだ」
オトネは、呼吸せず歌い続けていた。
その音色とともにダストを終わらせる為に……。
そして、レヴィンも決断した。
いや……していた。
「待て……レヴィン、何を……」
「いや……お前は誰だ!?」
レヴィンの左手中指。

その指にはめ込まれた指輪。
それは、その支配者の骨を削り出して創られた
指輪。
支配者の名は、
ゲーテ。
高速回転する水晶球と、指輪により、レヴィン……いやゲーテのダストは、最も濃厚な密度を得た。
【還れ我が妻よ】
AZURELYTONE 5-007

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