第五部002話「眠り人達」
協会には、人々が集っていた。
この場所には、とっくの昔に、神など降り立たないと誰もが知っている。
廃墟となっていたこの教会で、不死の力を取り戻したサヨの隠れ家となり、今では、組織のアジトとなった。
サヨ達の調査により、夜が明けなくなった日、日の出の直前に街の外に出ていた者達が、眠り人(インザイン)になった事が判明した。
それは、夜明けから働く者、散歩する老人……。
それは、夜明けを約束にした恋人……。
【礼拝堂一面に並べられたベッド】
祭壇から放射状に敷き詰められたベッドの数々。ここにいる眠り人達は、サヨの部下達の家族や大切な人達だ。
サヨは、眠り人になった者達の保護と研究の引き換えに、仲間を集めていた。
かつて、街を支配していたのは、領主のクロウズだったが、それは表向きの事。
彼に不死力を与えたものは、ボスと呼ばれる存在。
ボスの名はゲーテ。
医術、錬金術に精通していたゲーテは、不死の狗(メフィスト)を捕獲し、最初に妻を、そして自分を不死にした。
ゲーテも、その妻も極夜の日を境に、行方不明になっている。
極夜とゲーテが関わっている事は、間違いがない。サヨは、「ダスト狩り」を街に放ったが未だにゲーテは見つからない。
眠り人を目覚めさせるには、その体内のダストを取り除くしかない。
肥大していく組織。
増加していく眠り人。
サヨは、内心焦りを抱えていた。組織員が自らの命を顧みず、彼女に尽くすのも、眠り人を保護している彼女なら、彼らを目覚めさせることができるかもしれない。
何十年も目覚めぬ人々。家族に残された僅かなの希望。サヨに縋るしかなかった。
サヨは、目的を達成するためには手段を選ばない。選ぶ必要はないと考えている……。
いや……そうあるべきだと思わなければ、成し遂げることなどできない……と。
だが、ミヅキからレヴィンとオトネを奪う計画では、仲間を失いすぎた。
サヨが、眠り人を保護しだしたのは研究目的がきっかけではあったが、そのために犠牲者を出してもよいとは思っていない。
むやみに、狂信的な部下達を、駆り立てるわけにはいかない。
サヨは、仮説を実行する決断をした。
ゲーテは見つからなかったが、この狗がいる……ダストが如何に濃くても、この狗のキャリア(深さ)なら、眠り人から分離した大量のダストを吸収できるかも知れない。
子供時代のサヨを苦しめたクロウズ。
彼は、ダーザインとして、アレーテウェイン(真理化)を起こすまでは、善良な男だったという……。
持て余す闇は、狂気を孕む……。
(私程度の器が、どこまでのものか……)
中央に立ち尽くす女性。

祭壇の中央に立ち尽くす少女オトネ。
そばには、レヴィンが寄り添っている。

「なんだこの仰々しい設備は?」
サヨの気配に気がついたレヴィンが悪態をつく。
「音と光、そして衝撃、これらは私達の世界では延長上にあるけど、次元を分けると別々の現象になるそうよ」
「違う次元では、魔法と呼ぶそうよ」
「彼女の声と、レヴィン……あなたの術で眠り人からダストを分離させる」
「術の構成が、まだ成立していない……」
「彼らは目覚める」
……かもしれない。
「儀式は三日後よ」
「魔法を期待しているわ」
(……あなた達にも、……私にもね)
魔法陣の中央。
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瓦礫の中央に佇む青年。
ミヅキ……ではない。
金色の髪は、サイドで刈り込まれ、少年の面影を残している。

ミヅキに血の契約を交わすことで、僕は自分の身体についても知る事ができた。
僕は、産まれた時、すでにダーザインだった。
辛い記憶だったけど、収穫もあった。
新しい発見。
僕は、成長できる。歳をとれるんだ。
ただ、人と違うのは、時間の経過で歳を重ねるのではなく、自分が望んだときだ。
だだ、気をつけないといけない。
歳はとれるが、若返る事はできない。
彼女らは、僕は死んだと思ってる。
僕は、自分とその能力を隠すため、青年まで歳をすすめた。
店は、大量の瓦礫と成り果てた。
ミヅキには、店には近付くなと言われている。
店は崩れ去ったけど、オトネが連れ去られたこの場所に、必ず手がかりがあるはず……。
F(フー)は、あるものを探していた……指輪だ。
クロウズに身体を乗っ取られ、サヨと戦っている間に落としたようだ。
あの日、初めてミヅキに出会った時に貰った指輪……。
あの日から、僕は、僕が生きてもいいと思えるようになった。
あの指輪から、何かしらの記憶を読みとれば、ミヅキの力になれるかも知れない。
それに、オトネが拐われたこの場所の記憶から、拐われた手掛かりが見つかるかも知れない……。
何かと……。
目が合う。

木彫りの妖精。
ティンカーベルだ……。
(ドアに彫刻された妖精だ……返り血?……いや、わざと目にぬられている)
……あの日から、レヴィンも行方不明だ。
血痕は、店の崩壊時ではなく、その以前の訪問者の者のもの……つまり、レヴィンのメッセージ?
レヴィンが、オトネを迎えに来たとき、着けた血糊。
F(フー)にはわからないが、血はレヴィンのものなら…、
ミヅキは、血のねがいが、わかる。
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オトネが、サオリに捕らえられて数ヶ月経つ……。拘束されているというわけでもなく、むしろ、客として迎えられている感覚に近い。
レヴィンの部屋も隣に用意されていて、自由な往来を許されている。
オトネは、レヴィンの部屋に行ってみる。
また、留守だ……。近頃、何時間もサヨの用意した資料室に込もっている。
街の一般人であるミヅキや、レヴィンは知らなかった事でもあるが、ダストの存在や知識は、古くから研究されている。
あらゆる視点から解釈された結果、様々な組織が生まれ、幼少のオトネが過ごした信仰施設なども発生した。
オトネが子守唄がわりに聴いていた唄が、伝承された旋律「アズレリイトオン」だとレヴィンは言った。
その唄で、この協会に集められた人々を目覚めさせる事ができるかも知れない。
レヴィンが……そうしたいなら……。
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血に触れるミヅキ。
ミヅキに流れ込んできたものは、レヴィンの血の記憶だった。
協会の計画にレヴィンと、オトネの能力が必要だという……。
そして、レヴィンの血の〘ねがい〙。
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