ダーザインは、齢30を越えていなければならない。人間の精神は、12年をサイクルとして折り返す。
 判断基準、価値観、興味、欲求……。いままで大切にしていたモノに興味がなくなり、全く大切でなかったモノに惹きつけられる。

 新しい世界が拓けるのは、歓ばしき事だ。それによって、他者を受け入れ、自身の価値観が偏った物である事も気付ける。

 しかし、時には、疑いない信念、迷いない価値観が、恐るべき速度の解決力を生む。特に、討伐においては、それが最適解だった。

 クロウズの、その決断力、実行力は、僅か一年足らずで、アムネジア教団を壊滅させた。若きダーザインの破壊力によって、教団は迷いある信仰宗教として終息をむかえる。

 だが、その壮絶な討伐作戦が、ひとりの若者を狂気のダーザインにした事に気がつく者は、ごく少数だった。

 街は、少しずつ狂悪な街並みに色変わっていく。
 

 
「はぁ……はあ……」

 メフィストは、心臓がかけている。ダーザインは、体内の循環がないと自我が保てない。だから、サヨと繋がっていないといけないはずだ。
 サヨは、気を失って倒れている。二人の血管の長さは、約5メートル、なのに……なのに、ミヅキは、メフィストの動きについていけない。

 

「ここまで差があるとはね……」
 
 このままでは、オトネとレヴィンを止めるどころか、メフィストに欠片を取り戻される……さらに、加速するか……?

 アレーテウェインを続けると、肉体と精神の真理化がおこり、意識が定まらなくなる。
 クリムゾンアウト(理性崩壊)してしまう。

通常、ミヅキは、アレーテウェイン(真理化)でクリムゾンアウト(理性崩壊)するのに備えて、自身に暗示を加える。

 血の依頼
 〘血のねがい〙だけを叶える。
 どんな事をしてでも……。

しかし、依頼された
 〘血のねがい〙のどれもが、
 ミヅキが望ましいものでは、
 ……決してない。

  メフィストが咆哮と共に、地面を蹴る。
漆黒の稲妻が、ミヅキを直撃する。
 
 (ミヅキがアレーテウェインしたか……)

 レヴィンは、この時を待っていた。ミヅキのアレーテウェイン状態が続けば、理性を失う。ねがいを叶えるだけに身体が動いてしまう。

 ミヅキが、この教会に辿り着いたと言う事は、店の扉装飾であるティンカー・ベルにつけた血液を読み取ったにちがいない。
 そして、それは同時に、レヴィンの〘血のねがい〙の依頼を受けた事になる。

 レヴィンの指輪から、
 ゲーテの苛立ちが伝わる。
 (あの時、ミヅキが指輪をつけていれば……)
 (あのミヅキの身体があれば、
 街も容易に支配できるのに……)

 レヴィンは、ある日のミヅキを思い出した。
 店で、血まみれの男が、ミヅキに指輪を渡そうとした。受け取ったミヅキは、その後入ってきた追っ手達を振り切って、鬼ごっこを始めたのだ。
 
 それは、ミヅキが先に〘血のねがい〙依頼を受けたからだ。指輪に血液がついていたのだろう。

 (身体の持ち主に、恨まれてたんだろうな……)

 (俺と、あんたの相性はどうだろうな…… )

「さあ、仕上げだな」
 
 レヴィンは、超高速し始めた水晶球を、指輪を嵌めた手に持ち替えた。

 ダストの気流は、引き寄せられたかのように、レヴィンに向かい出す。