教会には、人々が集っていた。
この場所には、とっくの昔に、神など降り立たないと誰もが知っている。
廃墟となっていたこの教会で、不死の力を取り戻したサヨの隠れ家となり、今では、組織のアジトとなった。
サヨ達の調査により、夜が明けなくなった日、日の出の直前に街の外に出ていた者達が、眠り人(インザイン)になった事が判明した。
それは、夜明けから働く者、散歩する老人……。
それは、夜明けを約束にした恋人……。
【礼拝堂一面に並べられたベッド】
祭壇から放射状に敷き詰められたベッドの数々。ここにいる眠り人達は、サヨの部下達の家族や大切な人達だ。
サヨは、眠り人になった者達の保護と研究の引き換えに、仲間を集めていた。
かつて、街を支配していたのは、領主のクロウズだったが、それは表向きの事。
彼に不死力を与えたものは、ボスと呼ばれる存在。
ボスの名はゲーテ。
医術、錬金術に精通していたゲーテは、不死の狗(メフィスト)を捕獲し、最初に妻を、そして自分を不死にした。
ゲーテも、その妻も極夜の日を境に、行方不明になっている。
極夜とゲーテが関わっている事は、間違いがない。サヨは、「ダスト狩り」を街に放ったが未だにゲーテは見つからない。
眠り人を目覚めさせるには、その体内のダストを取り除くしかない。
肥大していく組織。
増加していく眠り人。
サヨは、内心焦りを抱えていた。組織員が自らの命を顧みず、彼女に尽くすのも、眠り人を保護している彼女なら、彼らを目覚めさせることができるかもしれない。
何十年も目覚めぬ人々。家族に残された僅かなの希望。サヨに縋るしかなかった。
サヨは、目的を達成するためには手段を選ばない。選ぶ必要はないと考えている……。
いや……そうあるべきだと思わなければ、成し遂げることなどできない……と。
だが、ミヅキからレヴィンとオトネを奪う計画では、仲間を失いすぎた。
サヨが、眠り人を保護しだしたのは研究目的がきっかけではあったが、そのために犠牲者を出してもよいとは思っていない。
むやみに、狂信的な部下達を、駆り立てるわけにはいかない。
サヨは、仮説を実行する決断をした。
ゲーテは見つからなかったが、この狗がいる……ダストが如何に濃くても、この狗のキャリア(深さ)なら、眠り人から分離した大量のダストを吸収できるかも知れない。
子供時代のサヨを苦しめたクロウズ。
彼は、ダーザインとして、アレーテウェイン(真理化)を起こすまでは、善良な男だったという……。
持て余す闇は、狂気を孕む……。
(私程度の器が、どこまでのものか……)
中央に立ち尽くす女性。
祭壇の中央に立ち尽くす少女オトネ。
そばには、レヴィンが寄り添っている。
「なんだこの仰々しい設備は?」
サヨの気配に気がついたレヴィンが悪態をつく。
「音と光、そして衝撃、これらは私達の世界では延長上にあるけど、次元を分けると別々の現象になるそうよ」
「違う次元では、魔法と呼ぶそうよ」
「彼女の声と、レヴィン……あなたの術で眠り人からダストを分離させる」
「術の構成が、まだ成立していない……」
「彼らは目覚める」
……かもしれない。
「儀式は三日後よ」
「魔法を期待しているわ」
(……あなた達にも、……私にもね)
魔法陣の中央。
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瓦礫の中央に佇む青年。

