AZURELYTONE 第五部 002話


「……犬?」

ドン!!!

「……っぐあ!!!!」

散弾銃の弾丸は、サヨの腕、その骨を粉々にくだき、貫いた。

「ヒャハッ 当たったぜ!」

「バカっ!? 当ててどうする」

「殺す気か!?」

「腕をつぶしただけだ、ダーザインかもしれねえしよ」

「身体があれば、楽しめるだろう」

「くくっ 変態だなお前」

油断した。今まで気を散らしたことなどなかった。人間に戻ってから、身体に傷が残らないように細心の注意を払った。

また、不死の力を手に入れるためだ。そのためにこんなミイラを10年もぶら下げ生きてきたんだ。

だが、この結末はどうだ。教会に飾られた、いかれたモニュメントを拝むために命の危険をさらした上に、腕を千切り飛ばされた。

床に血だまりが広がっていく……。近付いてくる男たちは、自分を生かして捕まえる気はないだろう……。抵抗できないものを汚す。こんなカスどもをこの世から消し去るために、不死を手に入れる。

腕から滴る血を、ミイラに注ぐ。

これでは、ダメだ。足りないんだ干からびすぎてる。たぶん、内蔵のなにか大事なところ……例えば、心臓とかが抜け落ちてしまっているんだ。

もっと、大量の血を……滞ることなく……ダメだ……意識が……。

すメシア……犬……狗……身体は人……顔……犬……狗……まざって……ミイラ………血がない。

「おい……動かなくなったぞ」

「ダーザインではなさそうだな」

「早くいただこうぜ 冷たくなっちまう」

男は、銃口でサヨの身体をつつきながら、愉しげに呟く。もう一人の男も奥からかけ戻ってくる。

「戸締まりしてきたぜ しばらくは誰も入れない」

「用心深いこった」

血を流しすぎて気を失ったか、サヨはピクリとも動かない。下着姿の肢体は血化粧でなめかわしさを増している。

二人のうちどちらが先にその体に触れるか、殺気に近い視線を交わした。

瞬間。

黒い影が、稲妻のように二人の間を駆け抜けた。

男たちの腕が千切れ飛ぶ。

「ぐわぁぁぁ!」

「犬が……甦っている!?」

のたうち回る男たちの目前に、サヨが立ち上がる。

「なぜ……生きて……その出血で……動けるはずが……」

サヨは、持ち上げた右手で髪をかきあげた。その腕には傷ひとつない。

手首から一筋の血管が伸びている事以外は……。

「繋いでみたの」

「血液が足りないなら、循環させればいい」

この女……ミイラに自分の血管を繋いで、血を常に循環させる。

そして、狗を復活させただと?

メシアの身体は人間……顔は犬。

つまり、この呪われた狗の一部を身体に取り込む事が、不死力を得る秘密。

サヨは、自らの血管をミイラに突き立て、ミ狗に自身の血液を輸血して復活させ、その中で不死力を得た血液を、還元したのだ。

「さぁ 革命のはじまり」

「サヨ様……」

……。

数時間もの間、一点を見つめつづけるサヨに、黒服の男が声をかける。

「……近頃、昔を思い出す……年をとったのかな?」

黒服の男は呟いた

「……まさか」

サヨは、変わらぬ美しさを保っている。

あの日から、この教会は協会とあらためられ、その礼拝堂には椅子の代わりにベッドが並べられている。

病気の患者ではない……インザイン(眠れる者)だ。

インザインは、夜が明けなくなったその日に意識を失い、その誰もが目を覚ます事がない。

原因もわからず眠り続ける家族や恋人を、誰が助けるのか?

サヨは、夜がなぜ明けないかを知っている。

「皆が待っています」

「ああ……」