AZURELYTONE第五部 008話
【不死者の街】
私達は、何年も何十年も、病の原因を研究した。
『永遠の生命が手に入る』
その噂に惹き寄せられる人々が、絶える事はなく、人体実験の素体集めに、苦労はなかった。
しかし、クリスティアーネの病を完治する術は見つかる事はなく、クリスティアーネに病の苦しみに重ねて、犠牲者の罪悪も背負わせる事になるとは……。
やがて……集いし人々は街を創った。
街を維持させるために、不死力を利用するようになり、メフィストはその身体を絞り尽くされた。
【混沌】
「な……この記憶は……」
メフィストは眠ってしまった。
これは、おそらくこの街の創始者の記憶。
そして、この犬の……。
館に充満するダストを、メフィストに取り込ませる予定だったが、サヨ自らに取り込ませるしかなさそうだ。
しかし……サヨは、戸惑いを隠せずにいた……。
メフィストと直接繋がってからのサヨが、自身よりキャリアの深いダストに接したのは、初めてだった。
ダストは、キャリアの深い方の影響を継ぐ。
(私は、このダストの“狂気”に耐えれるのか……)
青年の誘導により、目覚めた人々が避難をはじめている……。
(……半分は、成功かな…)
サヨは力を開放する決意をした。
アレーテウェイン
ドクンっ!
「グハっ!!!?」
サヨが、胸を抑えて膝をつく。
メフィストには、心臓がない。一つの心臓……サヨの心臓を二つの身体で共有しているのだ。
(あの記憶を共有させるために、メフィストが力を使った!?)
「この大事なときに……」
誰がダストを取り込むのか。
眠り人達の避難をさせる事で、
Fを、館から脱出させる事は
できたようだ。
レヴィンは、混濁する意識の中、
ポケットから取り出したガジェットに、
水晶球をはめこんだ。
水晶球が、
ゆっくりと回転を始めたのを確認する。
レヴィンは、
すばやく視線で周囲の状況を確認した。
ダストをこのまま対流させたままでは、
音階を操るオトネに流れ込んでしまう……。
ダストを、吸収できうるのは……。
サヨ……。
サヨは、メフィストに覆いかぶさって
意識を失っている。
メフィストいう虚無に、狂気を封じる事も、
今や不可能……。
ミヅキ……。
寡黙ながら、どこまでも人の良い
永遠の青年は、
この狂気に絶えられるのか……?
だめだ、
ミヅキにこれ以上の苦難を、
与えてはダメだ。
この水晶球。
この水晶球では、
ミヅキのキャリアには届かない……。
回転力で重力を
増したところで果たして……。
ダストは、より濃い存在にひかれる。
オトネの歌が掠れ始める……
充分な訓練も積まないまま
歌い続けているのだ……無理はない。
重ねて、
自身がダストに侵される恐怖にも、
耐えなければならない。
いや……オトネは、ブレスをしていない。
呼吸をしていないのか……!?
ドゥ!!
「歌を止めろ!!」
「レヴィン!! オトネを連れて舘を出るんだ!!」
舞台に降り立ったミヅキが、
レヴィンとサヨの間に立ち塞がる。
いつものミヅキなら、この高さ程度なら
足音すら立てることはないだろう
……負傷している?
ちぎれた足先を、
血液を硬めて代用している。
「ダメだ!! 歌を止めたと同時に、
ダストはオトネに流れ込む」
この事態にも関わらず、
レヴィンは冷静に応えた。
「彼女には、この狂気を抱えきれない!!!!」
このとき、ミヅキは気づかなかった。
レヴィンが、何故冷静なのか……。
「彼女が歌を止めないのは、
自身に取り込んだ刹那に、
自分の生命を終わらせるつもりだ」
オトネは、呼吸せず歌い続けていた。
その音色とともに、
ダストを終わらせる為に……。
そして、レヴィンも決断した。
いや……していた。
「待て……レヴィン、何を……」
「いや……お前は誰だ!?」
ミヅキが、レヴィンを制止しようと、
手を伸ばすが、僅かに届かない。
レヴィンの右手中指。
その指にはめ込まれた指輪。
それは、その支配者の骨を、
削り出して創られた
指輪。

支配者の名は、
ゲーテ。
高速回転する水晶球と、指輪により、レヴィン……いやゲーテのダストは、最も濃厚な密度を得た。
【還れ我が妻よ】
