01【カグツチは生まれた時、炎にくるまれていた】
その日、ある産屋から、雷鳴が立ち登った。
ゴォォオ。
赤子が産まれた時、産声ではなく、轟音が響き渡ったといわれている。
鬼は、火の精霊の加護を受けているが、産まれた時に炎を出している。
赤ん坊は、美しく優しいオレンジ色の炎に包まれている。母体の体力的にも通常はたいした負担もないはずだった。
しかし、母体は赤ん坊の火力に耐えきれず、火傷のため母親は死んでしまった。
雷に匹敵するプラズマに、耐えれる生物はいなかった……。
02【鬼の肌は赤いが、カグツチの肌は青色だった】
カグツチと名付けられた赤子は、その肌が赤くなかった。
産まれたその肌は、深い海のように真っ青だった。
乳母たちは赤子の顔に赤い魔術タトゥーを入れる事で、魔力を封じ込められ、その肌の色を薄橙に染めた。
そうしてようやく族長に存続を認められたが、不気味な存在として疎んじられた。
03【差別され育つカグツチ】
子供のころ、泣きじゃくる
痛みにも慣れた……。
顔から胸に渡る赤いタトゥーは、今年に入って腕に迫るようになった。
赤い髪を持つカグツチは、その全身に赤いタトゥーを入れ、世間に馴染もうとするが、逆に異様な風体になっていく……。
04【鬼は、人間を奴隷にしていた】
彼らが住むのは、東の果ての島国「アカツキ」。
そこでは、鬼と人間の二種類の民族が暮らしており、
この島で人間は、鬼達の奴隷として飼われている。
カグツチは、人間の管理をその仕事としていた。
人間は、鬼よりも一回り小さいだけで鬼と変わらない。角もないな……。違いは、鬼より勤勉で真面目、なにより従順だ。
一人の赤鬼が、カグツチに話しかけてきた。若い男だった。
「なんで、人間は奴隷の立場を受け入れてるんだろう?」
「……さぁ?そういう決まりだから……|己《オレ》には関係ない」
カグツチは、あえて興味もないふりをした。
奴隷の管理は、年寄りばかりの簡単な仕事だ。疎まれ続けてコレしか仕事がなかったカグツチと比べて、彼は、身なりもよく心身ともに健全そうだ。
貴族階級が、社会勉強でもしたくなったのだろう。
「そもそも、人間を家畜とするには、鬼と変わんない、近すぎるんだよね〜」
人間に対して見解を垂れるのは、珍しい。
しかし、この職場で相手にするヤツはいない。皆、人間の事なんか、どうでもいいんだ。
変なヤツだが、青い髪の自分を嫌がらない。
年の近い友達もいないのだろうな……。カグツチは、コミュニケーション力など育む事はなかった。だから、一方的に話続けてくれるのは楽でよかった。
毎日の仕事は、単純だった。
人間達の共同宿舎の管理。
毎日の労働を終えた人間達が、仕事を終えて帰ってくる。
それを、カウントして、朝出かけた人数と照合する。
簡単な仕事だ。
面倒なのは、80歳以上の老人と、6歳未満の子供は宿舎に残す。
それも、午前、午後の生存確認ですむ。
だれでも出来る仕事。
「リン……ビョウ……」
小さな手が一生懸命になにかしら形を組んでいる。
人間の子供同士で流行っているらしい。
九種類ある形を先に組んだら”勝ち”だそうだ。
カグツチが、真似をしてやると、嬉しそうに競ってくる。
人間の子供達はカグツチを、気味悪がって見ることはない。
身分のせいでもあるだろうが、それでも無垢な子供と戯れる経験は、カグツチにとって新鮮なものだった。
「おい カグツチ! 何してんだ!?」
いつもの若い赤鬼が声をかけてくる。
子供とたわむれる姿を、見られたのは、流石に恥ずかしかったが、若い赤鬼は少し驚いた顔をした。
「君にも、そんな表情をする時があるんだな」
「ちょっと安心したよ」
05【カグツチは、人間の少女を逃がしてしまう】
05-01【ある日、奴隷の脱走事件が起こり、捜索隊にカグツチも参加する。】
騒がしい足音と、怒号が飛び交う中、カグツチはいつもの職場に着いた。
(何だ? 騒々しいな)
部隊長がカグツチに向かって叫ぶ。
「なにボサッとしてる 武器をもて!!」
「人間が脱走した 何も知らんのか?!」
(|己《オレ》に、誰が教えてくれるっていうんだ? あんたが、話しかけてきたのもはじめてじゃないか……)
「各自、訓練の時の持ち場につけ!!」
「カグツチはタケルと、ここで留守番だ」
真面目な若い赤鬼は、敬礼をしている。
緊張しているのが、ありありと分かるほどだ。
「脱走した奴隷は、抵抗すればその場で始末してもよい」
「ただ、数は合わせろよ」
カグツチは、部隊長の最後の言葉が気になった。
05-02【しかし、脱走は、鬼達が仕組んだ事でハンティングを楽しむ余興だった】
しばらくして、若い赤鬼は牢のドアの周りをうろつきはじめた。
昨日、施錠したのは彼だ。毎日の確認を怠らない自分のミスが、信じられないようだ。
「おかしい……」
「鍵は壊れていない……鍵穴をいじった形跡もない……」
カグツチは、若い赤鬼の独り言を聴こえないふりをしていたが、あわれにも思った。
「くわしくは、知らないけど、戻ってくる前に逃げたんじゃないか?」
「いや……子供達もいないんだ」
【】
「外から開けたって事か?」
不信に思った二人は、迷路のような地下の通路をすすむ。
「さあ、お楽しみの時間だぜ」
05-02【暴虐を目撃した若い赤鬼は、怒りのあまり同僚を攻撃してしまい、
生き残った人間の少女を見逃してしまう。】
咄嗟に、赤鬼を気絶させ、自分が罪を被るカグツチ。
06【追放される】
人に情けをかけてしまったカグツチは、部隊長から罰をうけ、奴隷をハンティングしていた罪もきせられる。
「忌み子の分際で立場もわからんとはなっ」
カグツチは、地下牢獄につながれ数年間放置された。岩から染みでる水と、ときおり無造作に転がってくる廃棄された食糧で命を繋ぐ。
07【ツバキに拾われる】
玄武岩で囲まれた石牢。
栄養不足でもうろうとする意識の中、カグツチは、たわむれに独り言を呟く。
「リン……ビョウ……」
「うっ……」
よろける身体を支えるために、支えにした岩が僅かに熔ける。
「……!」
熔けた!?
玄武岩で敷き詰められた牢壁は、赤鬼の上位民族でも熔かす事はできない。
|己《オレ》に、炎の魔力が……?
07-01【数年の月日をかけ炎の力で岩を少しずつ溶かし、脱獄に成功する。】
07-02【荒野をさまよい行き倒れるカグツチは、人間のツバキに拾われる。】
「珍しいな……青い髪の鬼か……」
「カッコいいな」
「アメ、喰うか?」
08【ツバキは、人間だが、キメラを倒せる実力があった】
犬、猿、雉を組み合わせた生き物。
ツバキは、体力が回復していないカグツチを庇い戦う。
ボロボロになりながらも勝利したツバキは、あろう事にキメラに呟く。
「アメ喰うか?」
キメラを仲間にする。
丸い眉毛を描いて
「マロ」と名付けた。
09【生き物には心がある事をツバキから学ぶ】
「おーい カグツチ!!」
朝から、よくそんな大きな声が出るものだ。
まだ重たい頭を掻きながら、声の奥でする茂みの奥に行ってみる。
「……なっ」
そこには、ひとりの少女が、一糸纏わぬ姿で、水浴びをしていた。
「ほら、ここの湖は、水質がいい」
「お前も身体を洗え!」
人間にしても華奢だとは思っていたが、女だったのか……。
「拙者は……」
「なんだソレ? 」
「なに照れてんだ? オレ達は違う種族だろうが?」
「雄雌ちがうだけじゃないか」
ツバキは、裸のまま平然と振り向く。
「拙者は、男で、そなたは、女……」
キメラは、狂暴だがツバキにはよくなついている。それは、キメラにも心があるからだという。
たが、心を取り戻せない生き物もいる。鬼は人間や生き物を虐げ続けると、心を失うと説く。
10【ツバキの一味になる事を誓う】
民族も種族も関係ない。幼きを助け、仕事を分かち合い、その上で技術を競い合う。そのための国に作り替える事が、ツバキの目的だった。
ツバキは、その知識を惜しみなくカグツチに教える上に、剣技や魔術も教えてくれる。
11【鞘を海に投げる】
ツバキは、神剣『朱雀』を抜いた。
その刀身は、月の光に照らされその美しさを増す。
型を
【】
カグツチは、朱雀をかかげる姿に目をうばわれた。
「欲しいか?」
はっと、我にかえるカグツチ。
「いや……拙者は……」
「バカか?」
「我を女と意識すんなっ!! キモいぞ!!」
「拙者、しっしてねぇし」
「拙者っていうなっ!! キモいぞっ!」
ツバキは、朱雀の鞘を腰からはずすと、思いっきり海の彼方に投げた。
「これで、納める物はなくなった」
「もし、この戦いが終わったら、今度はあの鞘でも探す旅にでも出ようか」
「この刀は、鞘を見つけた方の物だぜ」
カグツチは、ニヤリと笑った。
「強引なヤツ」
11【次々と鬼を倒す】
ツバキの剣技と鵺の攻撃力、カグツチの火力に敵う相手はいなかった。
12【奴隷を解放】
奴隷をハンティングしていた部隊長と、カグツチの決戦。
「青い忌み子め、やはり厄災を招いたな」
奴隷を解放し、城の中央まで斬り込む。
13【鬼の長と、ツバキの一騎討ち】
鬼の族長は、病み衰えていた。
族長は、死を覚悟するが、息子が立ち塞がる。
「族長ではなく私はと闘ってくれ」
「そのかわり、我々鬼族は、この戦を、反乱ではなく」
「民族をかけた『決闘』として受け止める」
「我が名は、タケル 大和武尊!」
ツバキは、ニヤリと笑い刀を構えた。
「我が名は、ツバキ 桃源 椿 参る!」
14【三日三晩戦い続け、満身創痍のふたり】
鬼の先祖は、奴隷だった。人間と鬼は何世代にも渡って、支配の立場を入れ換えて、この国を発展させていた。文化を発展させなければ、大陸の国々から独立を保てない。
決闘は、民族の優位性を決める通過儀礼だった。
15【弱った二人をカグツチが襲う】
炎が二人を吹き飛ばす。
「国だとか」
「民族だとか」
「関係ないな」
「両方とも死ね」
16【カグツチは、二人を倒して、赤鬼も人間も支配すると宣言する】
「ククッ……己《オレ》は、親殺しだぞ」
「この二人の首をとれば、この国は己のもの」
「まとめて始末してやる」
カグツチは青鬼の能力を暴走させる。
17【ツバキと赤鬼は協力して反撃、モモの刃がカグツチを貫く】
ツバキの力だけでは、カグツチに敵わない。
赤鬼の火力だけでは、カグツチに敵わない。
ツバキの剣技「朱雀」でカグツチを貫き、赤鬼の火力を刃に透し、
カグツチに改心の一撃を加える事に成功する。
18【敗れたカグツチは、二つの民族の均衡が傾いたとき必ず滅ぼすと叫び】
「クソっクソっ」
「笑えるぜっ……お前らに協力の発想があるとはなっ」
「だがまだだ……己は負けちゃいねぇ」
「お前らの均衡が傾いたとき、必ず」
「その時は必ず……皆殺しだぜっ」
19【城から飛びおり海に身を投げ行方不明に】
カグツチは、手のひらを合わせ詠唱をはじめる。結んだ印から炎があふれでる。炎は、詠唱に合わせて赤い、黄色く、白く……そして青く……
臨・兵・闘・者・皆・陣・烈
「ヤバイ!! 炎の火力がドンドン上がっている!?」
臨・兵・闘・者・
ツバキは、あわてて印を切る。しかし、猛烈な熱気で意識が保てない。
咄嗟に、タケルが盾になってツバキを守る。
ツバキは、迷う。十文字目の詠唱をカグツチは何にする?
カグツチの狙いは?
在・前!!!
皆・陣・烈!!!
「陣」「光」同時力が放たれた。
編み目を構築した陣が赤鬼と人間を守る。
閃光につつまれた一瞬、カグツチの陰になっていたツバキは見た。
カグツチの笑みを。
その瞳は、深い寂しさに満ちていた。
炎は、プラズマを発現させ、城はオーロラでつつまれる。
そこに、カグツチの姿はなかった。
20【赤鬼は、人間と共存を誓う】
人間と赤鬼の協力を、お互いの民族の多くの民が目撃した事によって、民族は支配ではなく、共存できる事を証明した。
21【ツバキは、カグツチが人と、鬼のために
敢えて悪役をかった事に気がつき、涙をながす】
赤鬼は、カグツチに罪をかばわれた男だった。
ツバキは、
「私は、あんたのようなヤツを……」
「あんたを救いたかったから……」
「なのにまた……」ツバキは、カグツチが逃した少女の成長した姿だった。
22【大陸に流されたカグツチ。
その身体を貫く刀は、ツバキの神業で急所をはずされていた】
「いてぇ……」
カグツチは、胸に刺さる刃の痛みに眼をさました。
刃が砂浜にささったお陰で流され続けずにすんだようだ。
カグツチは、心臓をそらして射し込まれた刃を、
痛みを堪えながらも慎重に引き抜いた。
不思議とほとんど血が出ない。
カグツチが流れ着いた砂浜の少し先に、長く黒い物が刺さっている。
それは、神剣「朱雀」の鞘であった。
カグツチは、立ち上がると、海の向こうにみえる島国を後にした。