『扉』

目の前に、扉がある。

正確に言えば、壁がある訳でもなく、ただ目の前に扉だけが忽然と存在しているのだ。

どうやって作られたのか、表面に触れるとレリーフが動かせる。
スライドパズルのようになっていて、パズルを解くと扉が開く仕掛けのようだ。

しばらくレリーフを動かすと、意外と簡単な内容に感じた。

ふっと、扉から目をはなすと、数メートル間隔に人がいて、それぞれの目の前に扉が立ちふさがっている。

人の性別も年代も様々で、扉の材質やデザインも様々だ。

楽しそうにリズミカルにスライドさせる青年。しかめっ面で煙草をくゆらせながら、スライドする女性……。高級そうなスーツに身を包んだ老人……。子供やまだ歩き始めたばかりのような幼児までもが、手が届く部分を延々といったり来たりさせている。

ただ、誰もがパズル取り組んでいる。

かわいそうに、子供の扉のパズルは相当に複雑そうだ。

対抗心を燃やした僕は、自身のパズルを誰より早く解いて、扉を開けたくなった。

あっ。

このタイルと、こっちのタイルを入れ換えたら揃いそう!

「カチ」

老人の扉が開いた。
先に扉のパズルを解いたのだ。

視線が合うと、紳士的な笑顔を見せる。
会釈すると、そっと開いた扉の中に入っていった。
ホッとしたような、どこか寂しそうな笑顔が気になった。

「カチ」

煙草の女性は、適当に触っていたのが偶然合わさったようで、呆然とした顔で開いた扉を見つめていたが、静かに目を閉じながら扉の中へ入っていった。

僕のパズルも、もう解ける。

子供のパズルは、やけに難解そうでまたまだ時間がかかりそうだ。

幼児にいたっては、何年かかるんだってレベルでかわいそう。

…………かわいそう?

子供は時間がかかり、老人がひらき、不摂生な人が偶然にもひらいてしまう扉………。

「カチ」

僕のパズルが解けてしまった音だった。

そして、目がさめた。



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